世田谷区民会館 舞台照明設備

丸茂電機株式会社 菅野誠義

はじめに


ホール 客席

2024年9月にリニューアルオープンした世田谷区民会館(せたがやイーグレットホール)は、前川國男氏が設計した旧区民会館の意匠を継承しつつ、老朽化への対応と現代の利用ニーズに応えるため、建築、設備の両面で大規模な改修工事が行われました。歴史的価値を守りながら施設全体の機能を高める中で、舞台照明設備も全面的に見直され、ハロゲンとLEDが併存する現在の運用環境に対応しつつ、将来的なLED化を見据えた柔軟で拡張性の高い照明設備を整備しました。

■直/調切替回路によるLED・ハロゲンの併用

舞台照明の分野では、演出照明に特化したLED器具の開発が進み、LED化が急速に広がっています。しかし、スポットライトなど主要な移動器具においては、依然としてハロゲン器具を中心とした運用が続いているのが現状です。ハロゲン器具の調光には調光回路が、LED器具の制御には直回路・制御信号が必要であり、過渡期にある現在の劇場・ホールでは、それぞれの調光方式に対応したインフラ設備が不可欠です。

世田谷区民会館では、ハロゲンとLEDの併用、さらに将来的なオールLED化への円滑な移行を見据え、直/調切替回路を採用しました。例えば、舞台上のサスペンションライトには、1列あたり3kWの調光回路20回路、20Aの直回路3回路、200V20Aの直回路6回路を備え、さまざまな機材に対応できる十分な電源を整備しています。そのうえで、調光回路20回路のうち8回路を直/調切替回路とすることで、ハロゲン器具、LED器具のどちらを主体とした運用にも柔軟に対応し、将来的な機材構成の変化に備えた設備となっています。また、上手・下手の舞台袖には、1φ3W 40kVAの持込機器電源盤を設置しており、各種コンセントやカムロックコネクタにより、多様な持込機材への電源供給が可能です。


サスペンションライト


フライダクトに設備された多様なコンセント


舞台上部


持込機器用電源盤

制御信号においてもLEDやムービングライトなどの多チャンネル機材に対応できるようイーサネットによるネットワークを構築しています。将来的な拡張性も考慮してCat6のLANケーブルを幹線として採用。調光操作室の制御信号パッチ盤を中心に、客席天井のネットワーク中継盤を経由して各負荷に敷設し、負荷側のDMX-NodeによりDMX信号に変換し運用しています。


調光操作室に設置された
制御信号パッチ盤


客席天井に設置された
ネットワーク中継盤


舞台袖コンセント脇に
設置されたDMX-Node

■大幅にリニューアルされた幕前の舞台照明設備

今回のリニューアル工事では、新たに可動式の前舞台が設備されました。それに伴い、プロセニアムサスペンションライトと、前舞台上部の客席サスペンションライトを新設しました。また、ホール内の音響効果を高めるため場内の内装も全面的に改修され、客席壁面のフロントサイドライト照明室や、客席天井のシーリングライト照明室は撤去されました。改修後のフロントサイドライトは、バルコニー席の視界を妨げないよう壁面に沿った露出型の形状に、シーリングライトはケーブルリールを使用した昇降式にそれぞれ変更されました。ホールの天井は旧区民会館の特長である凹凸のある折板構造をそのまま残しているため、客席サスペンションライトやシーリングライト用のケーブルリールは凸部分の空間を利用して設置しています。ちなみに、改修前はフォロースポット室へ行くために一度ホールを出て屋外テラスを経由する必要がありましたが、今回の改修によりホール内から直接フォロースポット室へアクセスできるルートが新設され、利便性が向上しています。


幕前(客席側)に新設された昇降式の舞台照明設備


フロントサイドライト


客席天井に設置されたケーブルリール


フォロースポット室

■フラッドライト、シーリングライトへLED器具を採用

LED器具については客席灯や天井反射板ライトに加え、ボーダーライト、ホリゾントライト、舞台の作業灯、さらに一部のエリプソイダルスポットライトなど、積極的に採用しました。 ボーダーライトには、生明かり用のウォームホワイト色のLED光源と青色の再現に特化した3色のLED光源を搭載したLEDフラッドライト「LBC-WB」を各7台納入。ホリゾントライトには異なるカラー光源3色を搭載した2灯構成の「LUH-2L-CB」(アッパーホリゾントライト)、「LLH-2L-CB」(ロアーホリゾントライト)を各10台納入し、多彩な色の表現が可能です。 また、前述の通り、昇降式に変更されたシーリングライトにはファンレスのLEDムービングライトを導入しました。調光操作卓にはムービング制御に対応した「シューティング機能付調光操作卓」と「grandMA3 compact」を採用し、遠隔でのシュート操作が可能となっています。省エネ効果の向上とともに、効率的な仕込み作業ができるようになっています。


LEDボーダーライト(LBC-WB)


LEDアッパーホリゾントライト (LUH-2L-CB)


シーリングライトに設備されたLEDムービングライト(SolaFrame Studio)


ギャラリーライトに作業灯用として設備された
LEDフラッドライト(LEF2-2M-WW)

■電源設備・調光装置


調光器盤


シューティング機能付調光操作卓


grand MA3 compact

■負荷設備

■ホール 断面図


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おわりに

本工事の実施にあたり、関係各社の皆様には多大なるご尽力とご協力を賜り、無事に工事を完了することができました。ここに改めて厚く御礼申し上げます。