ひらしん平塚文化芸術ホール 舞台音響映像設備
ヒビノスペーステック株式会社 システム事業本部 開発部 竹部 健太
1.はじめに
平塚市は豊かな自然に恵まれ、かつては旧東海道の宿場町として栄えた長い歴史と伝統を有する場所で、本施設は見附台周辺地区整備事業として設計・建設から運営まで民間の資金やノウハウを活用するPFI事業として整備されました。
平塚文化芸術ホールは、「体験する」、「きわめる」、「交流する、賑わう」をテーマに、さまざまな文化芸術に触れる機会を作る文化芸術拠点、また、文化芸術活動をはじめとした多くの交流が生まれる賑わい拠点を目指し、2022年3月26日にオープンしました。
施設内にはクラシックやコンサート、演劇、バレエから、企業の式典や講演会に利用することができる1,200 席の固定席の大ホールや、長手方向の側壁が隣接する見附台公園側にも開放ができ、公園との一体利用が可能な最大 200 名収容の多目的ホール、また大小の練習室や会議室、和室、キッズルームなど 8 室を備えています。
ここでは、2つのホールに納入された舞台音響設備及びVoIP統合型の映像設備について解説します。

ホール外観

ホールホワイエ
2.2. 大ホール舞台音響設備
本ホールの大きな特徴の一つとして、ラインアレイスピーカーの露出設置が挙げられます。
これまでのホールでは、スピーカーは隠すもの、見えないものという設計上の暗黙の了解でした。
これはスピーカーが見えていることによって無意識ながらも聴覚が視覚情報に引っ張られることを避け、舞台に集中するための措置としては有効な手段ですが、位相コントロールを重視するラインアレイスピーカーに関しては、前面の障害物(サランネット)や周囲を囲われる環境は決して好ましい環境とは言えないところです。
本件では設計当初からこの問題意識を持ち、露出設置することで計画をスタートさせたのですが、見えることでの一体感ある意匠性とコストバランスも鑑みながら関係者との協議を重ね、最終的にはCODA AUDIO製N-RAYを採用することになりました。

大ホール 全景

大ホール サイドスピーカー
CODA AUDIO製N-RAY
実はN-RAYは実施設計発行後の2020年4月に発表、5月に新発売されたばかりのニューモデルでした。
これは従来のViRAY(8インチ3WAY)とTiRAY(5インチ2WAY)の間を埋める「6.5インチ3WAYモデル」として登場し、最大音圧レベル143dB/SPLという圧倒的なパワーを有したモデルです。
当初は、様々な都合で別ブランドの製品やCODA製TiRAYも検討候補として画策していたのですが、PFIの運営会社様をはじめとした関係者協議の中で、“もう少し余裕を持って拡声が出来るモデルにしたい”というご要望があがり、満を持して登場したN-RAYをご提案させて頂き、試聴も頂いたうえで設計変更となった経緯でした。
これは設計段階から運営会社様が参画されていたことでご意見を反映することが出来たPFI事業におけるメリットの一つであったと振り返ることが出来ます。
N-RAYの配置と構成に際しては、舞台間口のサイドとセンタープロセニアムをメインスピーカーとして構成しています。
サイドスピーカーは、1階席から2階席まで広くカバーする必要性とバルコニー席先端部への余計な反射を抑制するという観点から、中間に低域拡張ラインアレイモジュールのSCN-Fを挟み、1階席狙いと2階席狙いに分けた配置、サブウーファーは18インチモデルのG18-SUBを床置きとしております。
プロセニアムスピーカーに関しては、プロセニアムアーチが天井反射板として機能する点や意匠デザイン、セリフ中心の拡声用途になることなど様々な要因を鑑みて埋め込み型として設置しましたが、天井反射板機能として反射面を多く残したい建築音響側と、音抜けを良くしたい音響設備との意向バランスを取りながら開口調整した点は苦労した点のひとつとしてご紹介させて頂きます。

プロセニアムスピーカーと開口

サイドスピーカー(下はインフィル)
操作系に関して、音響調整室の音響調整卓には高い性能と音質を誇るDiGiCo社のSD-12/96を選定しました。SD12は2017年の登場ですが、2019年9月にアップグレードされたSD12/96を採用することで96ch/48busに拡張された当時の最新モデルでの導入となりました。
伝送システムはDante/96kHz対応とすることで、システム全体に渡って高い品質を保った仕組みとしています。
パワーアンプ架内部では、Dante対応デジタルマルチプロセッサーBLU-806で処理した信号を、メイン系にはLiNETコンバーターを経由して、補助系や効果音系はBLU-LINKを経由して伝送しております。

大ホール 音響調整室 音響調整卓
DiGiCo製SD12-96

大ホール アンプ室 パワーアンプ架
主要機器構成
※一部のスピーカーは竣工後の改修工事で組み替えております。
3.多目的ホール舞台音響設備
多目的ホールは、その名の通り、音楽、演劇、ダンス、講演会、レセプション等、多目的用途なホールです。
スピーカーシステムは豊富なラインナップを誇るJBL Professionalの設備用モデルから指向性の異なるAC266、AC299を選定し、昇降式のグリッドバトンに対して平土間利用かエンドステージ利用かによって吊り替えが可能なバトンクランプ式の取付方法を用いています。

多目的ホール 全景

吊替え可能なスピーカー
JBL Professional AC266、AC299

昇降式グリッドバトンに対して
組み替え可能なスピーカーパッチ盤
操作系については、運営会社様から「仕込みをしたら部屋貸しする運用としたいので、詳しくない方でも簡単に操作できる仕組みしてほしい、イベント時は技術ギャラリーに機材を持ち込んでオペが出来る様にしてほしい」とのご要望を頂いたことから、AMXを用いた制御システムで利用ニーズに合わせた運用パターンを選択できる操作パネルと、操作系はDiGiCo社のデジタルプロセッシングエンジン4REA4を中核に、場内の操作ワゴンでフェーダー操作できるリモートコントローラーによる簡単操作で構成しました。
4REA4と繋がるI/O回線は大ホールと共通のOPTCORE光回線のため、イベント時には大ホール用舞台袖簡易操作卓であるSD11iと移動型I/Oラックを接続することで技術ギャラリーでの拡張オペを可能とする仕組みとしております。

リモートコントローラーを
配した操作ワゴン

AMX制御による操作パネル
主電源スイッチ/
運用パターンスイッチ

多目的ホール 技術ギャラリー
主要機器構成
4.大ホール・多目的ホール VoIP統合型映像設備
当時、出始めたばかりのVoIP(Video over IP)方式をいち早く導入しました。
これはIP伝送ながら低遅延高画質で、IPネットワーク上で入出力が自由にスイッチングできる非常に自由度が高い伝送システムで、まだまだ新技術の状況でしたが、弊社では既に導入実績があり、得られる自由度にも高い評価を得ていたことから仕様化に至った経緯です。
更に、大ホールと多目的ホール間および楽屋系や事務室とも統合ネットワークで結ぶことで相互の映像連携が容易に出来る様になり、ライブビューイングやリハーサル室としての活用、楽屋の兼用など、柔軟かつ簡単に運用することが出来る仕組みとなりました。

本システムの柔軟性を活かして、楽屋系への音声送りもアナウンスありとなしを選択できる仕組みを考え、きめ細やかな楽屋アナウンスを可能としました。


ITVカメラ

プロジェクター

大ホール舞台下手袖ITV架
主要機器構成
5.大ホール・多目的ホール 相互音声連携
映像の相互IP伝送化に伴い、音声信号もデジタル信号のまま相互連携できる仕組みとして、Auvitran製オーディオツールボックスを用いたDanteブリッジの仕組みも取り入れました。
これによりDanteデジタル信号(96kHz)は通しながらも相互のクロック信号は分離させることで、お互いのホールシステムをマスタークロックとして運用できるものとしました。
6.諸室音響設備:大会議室、大練習室、小練習室 他
ホールに付随する関連諸室にも音響システムを備え、利用者自身が操作することのできる簡単操作の仕組みを導入しています。

大会議室の様子

大練習室の様子

小練習室の様子
7.おわりに
本ホールの音響映像設備では、新しい取り組みにもご理解を頂き、様々な工夫を凝らした導入が出来たと感じております。これもひとえにご協力とご尽力を頂きました関係各社様のお陰です。
この場をお借りして全てのご関係の皆様に厚く御礼申し上げます。
