2001年8月23日 JATET 音響部会主催 音響研究会
会場 グローブ座ロビー
「演劇における電気音響のあり方」
始めに、 JATET音響部会長 :八幡泰彦
・本年2月23日に劇場での、音響のあり方について音響部会としてシンポジュームを開催した。
シンポジュームでは劇場と言う広い範囲で意見を求めた為、議論が発散傾向になったきらいが
ある。よって部会として議論の範囲を狭め、演劇の音響という切り口で研究していきたい。
・劇場の音響を考える場合、現状ではスケール・広がり感が再現できない。劇場としてのスケール
感の創出、劇場への注文と考え方、あるべき方向を研究し、必要によっては実験会を行いながら
魅力を提供できる劇場音響のあり方を探りたい。
・来春には新国立劇場を実験会場として(申し込み中)役者を交えてた音のバランスや定位等の
実験も考える
・今後さらに研究会を継続しながらオペラ、オペレッタ、ミュージカル、コンサート等へ進んで行く
つもりである。
演劇評論家の意見 : 藤田 洋 氏 (演劇評論家)
・60年芝居を客席側から見てきた立場から意見を述べたい
・最近の劇場で音響的クレームを考えると、
・横浜21世紀座の件
坂東玉三郎氏が音響上の問題で舞台監督を降板した件がある。本件は、毛机上の近傍を
大型トラックが頻繁に通行し劇場内に交通騒音が漏れるのが原因。演出上、玉三郎氏は微妙な
演出へのこだわりのある方で感性上これら騒音問題は許容しかねたことが主原因。
・新国立劇場の中劇場の件
OPEN当初、声が聞こえないクレーム発生、舞台形状可変で張り出し舞台と通常舞台等で、
扇面状の側壁可動機構と深い奥舞台等により、セリフの明瞭な伝達が損なわれていた。
現在は、形状面での客席構成を含めた音響検討と電気音響両面で改善対処されている。
・新劇の歴史をふりかえると
昭和26年頃の新劇、三越新劇・旧帝劇・東劇・新橋演舞場等では声の訓練がなされていたのか
音に関するクレームを聞いた事がない。また、日本では見ない事だが イギリスの劇団ではボイス
トレーナーを同伴している。演劇の内容の変化を見ると、新劇の問題点として1960年安保の頃の
新劇は、リアリズム演劇であった。 これらが退潮し、若者の勢いにまかせた演劇へ推移した傾向
になっている。
・演劇の基本はリアリズムである
リアリズムの上に感動がある。 一例としてSBSの辻亨二氏の著書に30年ほど前の話で演出家から
霧の音を出す要求に対応したことが記されている。 それらしい音を作る事もリアリズムであり、
そこには音の楽しみがある。歌舞伎でも雪の音がある。雪音は関西は大きい太鼓でドーンドーン
関東はドンドンと地域感性に合わせて効果音が演出されている。
演劇演出音へのこだわりの変化、 演劇は人が作るものでハードは補助である。
ヨーロッパではハードのミスやしくじりは咎めないが人が手抜きをするとブーイングされ
観客は人の力量をみている。
・最近の演劇仕込み事情は、照明も音響もCPUの打ち込み(INPUT)に時間がかかる。
スーパー歌舞伎等でも 照明の仕込みと演出の打ち込みに、照明家の吉井澄雄氏と共に主演の
市川猿之助氏が立ち会っている。いい仕事をすることが基本だが 音響・照明・舞台機構・ともに
CPUの仕込みが大変な時間を要している。
ホール館長 : 大野 晃 氏 (神奈川県民ホール館長)
・舞台監督 → 東京グローブ座OPENから立ち上げに係り 支配人に就任 →
現在、神奈川県民ホール館長
・横浜21世紀の件
21世紀座はドームシアターで テント小屋である。指摘された音響上の問題は、設立計画から
係っていればテント構造には全面反対すると思う。県が購入し 現在運営委員の立場で
この劇場をどの様に運用するか苦慮している。
近傍を大型トレーラーが通過すると海鳴りのような騒音になる。太鼓やブラバン等大音量の
イベントを企画する手もあるが、弱音時の課題や 近隣マンションへの音響騒音は苦情の
要因にもなる。
・劇場の音への意見
空間の中で音に包まれたいと考える。 肉声とハードでの音のバランスが重要である。
グローブ座のOPEN時も裏を走る山手線の音をさえぎる鉄扉が舞台の脇にあり演劇の運用に
支障をきたすので設計変更の上その鉄扉を外し、舞台搬入口扉の二重扉化で対処した。これらの
仕事の流れの中で関係各社からデーターを提示されたが、機械や計算で得られたデーターと実際
耳で聞く音は違う体験もした。
・音と実像の問題
文化庁ロンドン研修の際、2000人のシューボックスホールでピアノの演奏会を聞いた。その際に
上部客席後部で舞台から最も離れた席で、舞台上の実像が遠く小さくしか見えないのに、その席
で聞いた音は非常に近くに聞こえ明瞭でリアルな音だったが実像で想像する出音のイメージと隔た
りが大きく非常に不自然に感じた経験がある。
・劇場空間について
商業演劇では本来役者の生で肉声が届く空間で行っていたが、大きい空間で大勢の客を相手に
マイクを使い声が届くようになった。しかしながらオペラ、バレー、演劇にはそれぞれふさわしい空間がある。
現実にはオーナーには収益性を上げる事と、箱物を立派に見せたい見栄と言う矛盾がある。様々な劇場
空間があるが、その空間にマッチした音、声が浮き足だたず音で埋め尽くしたいと思っている。自分は幼少
より左耳が聞こえないが、右耳の感度が上がりMONOの耳で音を聞きオペラ等の演出をしているが演出上
なんら支障はないと感じる。
・演劇の音
演劇では役者のセリフが明瞭に届かないと芝居が成立しない、内容が客に届く事が先決、パワーで音を
届けてもだめである。
施工メーカー : 宮野 信裕 氏 (不二音響 マーケティング室 室長)
・音響の専門ではないが、広報/イベント支援/施主提案/公文協のセミナー等を担当している。
・音響設備施工の立場で
・スピーカーの施工問題
建築ディザインの優先からスピーカーの前面で、格子形状や金属物等の障害物が来る事で、スピーカー
本来の性能、音質を引き出せなていない現場が多い。また、予算の関係もあるが、付けたい場所に付け
られない場合やシ−リングやウオールSP等個別に音を出す必要ある系統がパラ出しになっていたり数を
減らされて効果的な運用が阻害される例もある。 運用側、使う側、管理する側でもっと話し合い設備の
あり方が決められていくべきである。 JATETからも業界へ方向付けを提案して欲しい。
・公共ホールの人材不足
地方の会館は多目的ホールが多い、が、音響支援以前の問題として、管理側の能力不足が
見受けられる。人事異動が多く やっと ホール業務に慣れた頃、新人が赴任し その度に設備の
説明を行う事がたびたび有る。文化のために作られたホールに運用が伴わない事が残念である。
・自主公演での支援例
地方の会館の例では1000人の会場でアマチュアのミュージカルが行われ、声が届かない部分に
ワイヤレスマイクを使用し、これにディジタルの音像定位を施し、セリフを明瞭に伝達出来ている例もある。
この例では拡声レベルの上昇やハウリングに有利になる。専門オペレーターのいないホールではハース
効果等が活用されていない。
ハース効果などの設備は簡易な操作で運用できるようにならなければならない。
・その他の課題
楽屋が少ない、なぜ練習室やリハーサル室は一つか、スタッフの移動動線の不備、搬入口の不備
等がある。
新国立劇場音響担当 : 渡邉 邦男 氏 (新国立劇場 技術部音響課長)
・新国立劇場は3ホールある。大、中、小のうち演劇は中ホールと小ホールが対象になる。
・演劇での音を考えると
・生音がどう客に伝わるのかが基本
肉声/楽器の生音に劇場の響きが大きく影響する。具体的には直接音/一時反射音/残響音で
伝わり方が変化、舞台上の道具/温度湿度/客席の客の入り具合等の状況で微妙に変化する。
・口の指向性
肉声を伝える上で直接音が重要だが、口には指向性がある。役者の位置や向き等で反射音や
残響だけで客席に届く事もあり、この場合はいくら声を出しても明瞭にならないため 電気音響上
でこれを補完する。
・新国立劇場での音響オペレート
プロセニアムスピーカーを主体に仕込みマイクやワイヤレスを出すが、バランス上生音に明瞭性を
加味する方向でオペレートする。その際、音像の定位を確保しつつ役者の生音とぎりぎりのSRレベル
でオペレートすれば問題ないのだが、現状の演出の要求からこのレベルを超える事がある。
これは若い人の大音量に慣れてきている事が一因になっている。
全ての音量を上げるのではなく、空間の構成が大切である。劇場ではダイナミックレンジを大きく
取る事は、演出を含めて可能だが、生音にいかに方向性を持たせて 支援するかに尽きる。
・劇場音響の完成度を上げる構成要素と調整手段
構成:電気音響の技術(入力はMIC/再生機器類 出力はスピーカー/HEADPHONE等)/オペレ
ーターの技術/追い込み方
1)役者の声のPICK UPとSPの使い方
床、天井、バトン、装置裏の仕込みMICによる収音と、どのようなSPを使って定位するかが
ポイントである。
2)効果音を舞台空間上 どういう方向から/どういう迫力で/どうだましながら出すか
・監督、演出家、その他関係者とのコミュニケーションすること。
・SPの前面処理の重要性等をまとめJATET等のから業界筋へのアピールが必要である。
・可変舞台機構でのシステム課題
・中劇場等のように、舞台の可変機構が有る場合、役者と客席の距離が変化し向きと距離の
補正が固定スピーカーでは役に立たない。
中劇場では:6箇所の仮設が可能、小劇場では :全て仮設仕込み方式としている。
・最近の演出ではオーケストラピットを潰して張り出し舞台にする演出も多い。この場合、固定の
プロセから出すとハウリングを起こしやすい。
今後の劇場では、プロセニアムでも仕込み位置が吊りバトンやワイヤー等でフレキシブルに
変えられることが大切であり、演出に合わせた セッティングを可能にしたい。
・音像定位について
最近やっと使われ始めた。技術をより確立して生で聞こえたリアルさをスムーズに支援できる
簡易仕込み方式のシステムの確立を望みたい。現状では役者位置が動いた時のフェーダー変更、
マイク位置変更等、全てが大変で、さらにオペレーターテクニックが要求されている。
・演劇に使われるスピーカーの数について
・舞台中の仕込み: 電話の音、猫の鳴き声、舞台奥からの爆発音等をカバーする上で、
転換時の不自由さに、バ
トンでの吊り下げや人海戦術で対応している。中劇場では本舞台の後舞台奥からでは
音が客席まで届かない。
移動舞台への回線の増設と舞台転換対応への工夫が必要。
・今後の舞台は、映画のサラウンド効果の活用や 舞台/シーリング/ウオールによるリアルな
音像移動を実現するサラウンド効果の研究等が望まれる。
・台詞SRの基本
・セリフの場合、いかにリアルでナチュラルに明瞭度を上げられる方法と微妙なフェーダ−ワークが必要。
・将来あると便利なもの
・ワイヤレススピーカー:ケーブルのないスピーカー、移動床でも問題ないBATT駆動等
・小型ハイパワースピーカー: LOWからHIGHまでしっかり出て指向性可変なスピーカー